眠りにつく10秒前。

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詩集の血 【第1稿】

 

人と神を隔てるものがあるのだろうか?

家ーー規模はどうであれーーそれは一室でも構わない

その主は神たり得る

しばしば肉の曲線はやわらかく

子供たちの喉をしめつけ、子供たちは肉に喰らいつく

欠陥だらけの神様!

糸引くよだれ 足を滑らせたのは誰だ?傘を落としたのは誰だ?

穴は金で埋めるべきか、湖に月を浮かべるべきか?

礎の日記ーーあみだくじで決まる、我々のプロフィル

 

 

記録

 

すべては国によって記録されているんだって

君は被害妄想型夢遊病

ーーホントはイかれてるって噂だぜ

真昼の往来をご覧、お姫様

彼らの踵のペン軸

地図を書き換える様がわかるだろう

ーーブクブク渦巻くインキの匂い!

君のお城を侵略したがってるのさ

天使のゲーム、代替価値のある人生だよ

ーーでも君はトイレに首つっこんで

       三半規管を慣らすのに夢中

 

 

 

彼は忘れてしまった

幼い頃の甘露の味を

水たまりに転んだ拍子に

ロマンスの香りがわっと辺りに拡散して

通りの窓に突き刺さった

幽閉されたゼリー状の魂が舌を出す

彼は思う、

フラスコに漂う記憶の密度ほど

人生に価値はあるのかと

 

 

 

ルンペンはしきりに傘を欲しがる

まるで戦争を始めるみたいに

恋人の元に急いで帰る時に忘れた傘は

片割れを探し求めて

一つの城を形作ろうと

特にルンペン達を誘惑する

雨垂れを掬う乙女のような

薔薇色の頬の下で宝を探す

ピリピリする痺れに反応して

脳のシナプスが蹴りをくれるーー天使に傘は必要ないのだ

 

 

佩剣

 

陽光に照らされた杯に口づけを

裏返した掌に跪き 誓うは死に体の哀切

おお、厳粛なる聴衆の眼に映るのは

騎士自身ーー忠誠心の伝達である!

小さき女王様、

あなたはガラスの向うに何を見る?

股の間に潜めた傘をそっと開く時

神託は注がれるだろう

 

ーー曰く、そなたの半身は我が身なり

 

 

彼らのカメラ

 

君は続きを待ち続ける日記

時間軸からの逃亡を図る聖人たちから盗んだ

言い訳で編んだ花束

その一輪一輪を数えるしか

愛を伝える手段はないのだろうか?

彼らはカメラを構えて君を切り刻む

やがて君は腐り果て

残り香は瓶に監禁され

彼らは輪姦の夢心地

 

 

現場検証

 

とっておきの話だから 誰にも言っちゃあいけないよ

 

古い廃工場を見つけたのさ

仲間を集めて ぼくら 日がな遊んでたんだ

壁じゅうに毛糸をめぐらして窓をこしらえたり

鬼のいない追いかけっこをしたり

波の音で洗った星なんか食ってたから

しまいには男か女かわかんなくなっちまったんだ

ビニールみたいにつかれはててた

夏休みももう終わりだから

「つぎの夏もここで生きよう」って約束してさよならするつもりだった

そしたらどうだ 約束のヤツ

ぼくらの小指の隙間からみるみるふくれて

血しぶきあげてパンってはじけた!

 

それで警官たち 数百年ぶりの時間に胸踊らして

三ヶ月もあそこでたむろしてんのさ

ねえ 君 完全犯罪ってのは かなしいもんだね

 

 

春の宵

 

鳩が燃えてる大通り

夢にまで見たパサージュの囁きは

真昼のように鼻をくすぐる

拡大化した革命の足音に調子を合わせ

あらゆる生活と接吻する

アパルトメントの四角い窓枠

さあ 不滅の泉で乾杯しよう

胸をはだけ 俺におくれ

月の光を映すその肌の輝きを

 

 

Poème

 

雨雲はぼくの大きなつばさ

それは街をこじあけ

それは空をちかづけて

1秒でおちてゆく楽園の赤子たちと

君の透き通った青い血と

傘をうちすてだきしめる

 

 

自由主義者たちのバラアド

 

また書き換えられた

その度に僕らは痩せっぽっち

メルヒェンの合図に骨を鳴らす

ふくれあがったゴムまりみたいに

ママンが死んだ!ママンが死んだ!ママンが死んだ!

 

 

黄ばんだ絨毯

 

立ち直れない / しあわせ / 人生がたまらなく / 激しい浪費 / 桜と鬼の結婚 / それはつまり / ゴシックな / 走る車の / 畑の中 / 胸につきさす / 惑星直列 / ワンセンテンスの / 髪の毛で / 町娘と / ぶどう食べた / 朝方は / ルソー的な / 海岸線 / 本格的 / ベートーヴェンの / ムダ毛

 

 

散歩するふたり

 

アフォリズム男根主義

肌を擦り合わせる美術館

 

        我慢できない

        あそこにいるのは

        パパとママなの!

 

羽を伸ばすことはない骨董品

限りなく遺伝子に近づく青空

逆再生のレコードとハムスターの奴隷

一眼の天使 瞼から 雫 くれないか

君が誰だかわからなくなると

愛しい気持ちになるのさ

 

 

顧客

 

すべては可視化されている

と解釈する欲望を満たし続けてくれ

可愛い子豚ちゃんたち

 

きみたちの鈍足な脳みそ!

エロティシズムという名のお友達!

裏切りを良しとするマゾヒスト!

 

すべて俺たちの腹を満たす為の有価の贖罪



センチメンタル 17mg


星空のメンソオル

咥えた女と踊るよ

今夜がずっと続くよに

神さま もっと近づいて


きっと未だ 招待されない永遠が

風のカーテンコール バースデイソング

はにかんでちょっと呑み込んだ

地球の顔が見えた


見上げれば また同じ未来

赤いファンファーレ ファッションショー

オルゴール まあるい檻の下

あの頃と再会しよう



ジェヌヴィエーヴ


また悪い癖だ

君の出鼻をくじく

街を赤で満たすトナカイたち

   滑走路・スピード・観衆の目

   それはまるで大陸に寝そべるみたいに

車窓を切り抜いて覗いた

透き通った街の煤煙で胸いっぱい

黒い太陽が浮かぶ 冬の朝

   子供のふりは耐えられないと彼女は言った



雪の小鳥


マッチ一本も買えやしない

指についたインクが沁みるね

睫毛からこぼれ落ちる

涙も凍りつくよ


石を砕く相槌

良し悪しもわからない

週刊誌の人生が滲んでく

川辺に浮かぶ小舟に揺られて


ぼくら 雪の小鳥

夜の帳 その終わりの先に

一筋の光 折れてゆく

雲間を歩こうよ



自己演出


愛とはつまり

重要参考人の身ぶり

肝心って時に笑顔が消える

生意気さが宝石に見える

前人未到のクロール 心不全とニアイコール

スクロールでは距離が測れない

退屈って罪なこと?野蛮なこと?

裏をかくオリンピックの出場種目


毎日は張り巡らせた糸で

どこかで絡まってる日々の泡

捻る蛇口が見当たらないよ

運命に捕まっちまってるんだ



天気予報


眠たそうな眼つき

それは生まれつきさ おあいにくさま

豚のマスクで君を迎えよう

裸足になれる勇気を持とう

一畳の浴室を

モノローグで飾りつけておくよ


きっとこれは恋の報せ

塩辛くてぎゅっと 摘む息遣いの花

春が呼んだ甘い不幸せ

二人の影が空を飛ぶよう

テレビは点けておくね



ライツカメラアクション


捜査より翻弄を選ぶ

騙しのテク 夢のロハス

娼婦の手つきさ それは

色狂いのメンタルヘルス

落ち葉拾いも楽じゃない

おお ぼくは溺れてる 溺れてる

秋の誕生日 忘れないで

おお ぼくは溺れてる 溺れてる

蛇のやうな装飾が素敵だ

景色にしがみつく

ポートレイト!



ロックンロール


百年後に逢いましょう

目を閉じたら聴こえるでしょう

遠い国のサボタージュ

規制音と地響きの歓声

幼なじみのあの子と

何かしら胸をかき混ぜられ

あの扉 くぐってしまった

腕章を路上にうち捨て

そう まだ 約束は交わされていないから

どうぞぼくを忘れておくれ

屈服のひととき ラディゲの微笑

世界で一番 みじかい

結婚旅行に出かけよう



真昼


誰にも会わない朝

往来をゆく

子供らの声をたよりに

本を読み なぐさめる

珈琲の湯気をたよりに

今夜の夢の品定め


真昼

目を開けたままでいるんだよ

真昼

銅像になってどうぞ

真昼

窓の外を切り取ってあげるよ

真昼

穏やかな午後に歓びを噛み締めたい

穏やかな午後の血筋を撫でていたい

穏やかな午後が取り乱し雨みたい

穏やかな午後はたゆまぬ変動帯

真昼



初恋


白と黒にピンクが混じり

記号の暴動が止められない

大草原に月の兎が落っこちた

真夜中の味は蜜柑と檸檬

すべてがパノラマに映るキス

なにもなかった中になにかがあった

馬飼と宿屋と優等生のモンタージュ



ネムー


この暗い屋敷

ポーの詩を家紋にして

兄妹になろうよ

小指契り 血を混ぜて

僕の心 君に預けよう

子供たちは公然の愛人

白いピアノ弾いて

天国を下ろす朝の日課

屋根裏に天使の羽 コレクションして

メビウスの骨で編んだ

婚約指輪 あげよう

誰も僕たちに気付きはしない

神様も 隣人も 時代も!



現代が熟す前に


現代が熟す前に

ぼくを青田買いしておいて

朽ちて 老詩人になってしまえば

ただの甘い林檎さ きみと遊べない

現代が熟す前に

ぼくを青田買いしておいて

こっそり ホルマリン漬け しておくれ

春の青いままで謳わせておくれ

現代が熟す前に



増殖


人々を綾なすものは言葉であると

哲学者は言う

本当だろうか?

我々にとって大切なことは

決して言葉では言い表すことはできない

しかし 我々は言葉を用いる

不安なのだ

不安!君よ、勇気を出して

君自身の言葉で語ってくれ

時の流れは君を縛りつけるだけだ

君の不安を語るんだ



増殖 Pt.2


汚れてしまった

嘆く君 嫌い 嫌いなの

長い髪で黒子気取り

嫌い 嫌いなの

器から珈琲溢れさせ

笑う君も



自己言及


私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私



夕陽


太陽を知らぬ娘

豊かな生活は夜を忘れる

故に街は

夜を重宝する盗人の魂胆によって

ムンクの絵画と同一化している

彼らは知らぬ 知らぬということを知らぬ

現実が現実を追い越そうとしているのだ

窓硝子に娘はじっと凭れていた

太陽が最も人々に近づく時刻だった

   太陽は何を知っているのかしら?

   私のことご存知かしら?

たっぷりと潤みのある黒髪と対照に

血の気のなさが冴えている

その唇を太陽に向かって押しつけた

太陽は血を通わせて

母親のような面立ちで朱く笑った

影が娘の背中を告発していた



海の起源


街には屯している

剣を捨てた老人たち

それぞれの聖書を開きながら

他人の言葉を暗唱している亡霊

闊歩する欲望の主体は

少年の項にすべてのあこがれを凝視する

洗礼を受けるため 彼らに首を垂れ

面を上げた時 断頭台を見るだろう

少年たちは雨を待つ

それが毒であれと願う

美しい心で



マカロニ・ウエスタン


ファミレスでとる朝食は優しさで胸がつまる

いたいけな子供が興じている

自暴自棄のような恋がしたい

一万円札に顔写真貼り付けたり


長い春の終わり 馬の耳を齧る日々

足元に転がる石を投げて窓が割れた

ドミノ倒しのように保安官が倒れた

蜘蛛の糸に縋ってた 自分は脇役に似てる


明日こそ 明日こそはと

願いつつ 無駄になる 今も今までも ごめんね


誰も禁止なんてしていない

それでも酔うことはできない

腹の底に刺さった 17の歳に折った槍

コマ割りされた人生が笑う

夢にまで見たダークホースは

まだ夜の中を彷徨っている


ぬいぐるみ振り回して叫びたい

あの日の告白を胸になぞりながら

眠る夜とどちらが幸せだろうか

受付で未来が手を振った

指に触れた感触で我に返った

はじまりを告げるピストルが鳴った



突然 炎のごとく


画面から消えた文字の墓場で

釣りがしたいな あなたと一生

財産が自殺しても 実家が失踪しても

名前を探さなきゃいけないなんて

終わりのないデートみたいだね

トイレから出たくない気分によく似てる

若い頃によくある軽蔑の気持ちは

世界と同化しても消えないから持ってていいよ

台所から宇宙に繋がる熱に冷や水をかける

場違いな恥じらいも天才的に美しく燃やす

瞬間が死んでも永遠で転生して逢いに行くから待ってて

手ブレ写真もきらきらめく 走馬灯の行方をずっと追ってる

木枯らしはあなたと私のために



ローズ・ブルグス


呪われた夢を見ているようだ

君の後ろ姿を街中に見かけるよ

行き場をなくした魂が

石畳の上で迷子になってる

利き手を変えたのかと思ってたよ

とはいえ 手紙をありがとう

ローズ・ブルグス

涙を流す代わりに

スーパーマーケットでマーガリンをぶちまける

ローズ・ブルグス

大学の小窓から見る世界はどうだい?

銀行が君と寝たがってるぜ


郊外の街で君の知り合いと会ったよ

豚にアルミをしこたま喰わせて

錬成した金貨で遊んでたってね

君は僕を馬鹿だと言うけれど

気が触れた異邦人のふりなんてどうかしてる

いずれ手記でも出版するつもりなんだろう

ローズ・ブルグス

妹と手を繋いで

教会で歌う君の声は綺麗だった

ローズ・ブルグス

埃たつ小路で二人きりの時

君の目はあんなに輝いていたのに


ローズ・ブルグス

革命に巻き込まれ

あっけなく死んだ田舎娘の名前

ローズ・ブルグス

誰に祈ればいいのだろう

君はここに眠ってなんていないのに



素晴らしき哉、人生


絨毯の温もりと黴くさい本の壁

逃避行を図ろうと

僕には永遠を見つけられない

ならば屋上の螺旋階段を昇り

黄ばんだ太陽が照らす

この街の地図を作り

世界の抜け穴に糸を通そう



ウィンストン


赤いスウェーターが似合っていた

街一番のひねくれ者

図書館で厳しい顔の

僕をいつもからかっていた

冬の朝 オートバイ

はじめてキスを知った少年の青い顔

いつだったか 世界は君のものだった

もう計画を立てることはやめたんだ

この雪が解けたら

僕はまた一つ 君に近づける気がする

その時まで さようなら

誰よりも愚かな王さま



冬の魚たち


窓をしめきって

私たちは服を脱ぎ

紫煙の中をパクパクと泳ぐ

時計だけが私たちを見ている

時間が音を立てる度

なにかを失くしている気がする

夜明けのうたがこんなに優しく聴こえるなんて

かなしいってこんな気持ち?

愛ですべてを満たしたかった

あなたは長い針 私は短い針

あなたの指先は冷たい死神

涙も出ない もう枯れてしまったの

私のみずうみ



夜の果てへの旅


孤独の鏡がひび割れて

ここはナルシスの子供たちが嘆く国

彼らは自らの肖像を描く

そこにのみ 光があるように

ほんのちっぽけな不安に

彼らは闇を見出す

黒い妖精は原始の夢をもたらす

軽蔑にのみ捉われた者の

引き金にかけた指は赤く燃え

少しも躊躇いの色を示さない

食欲をそそる硝煙の匂い

欺瞞を貫く尊大な男たち

慈愛の独裁にいそしむ女たち

僕は加害者か?被害者か?

こんなくだらない意識を抱きながら

惨めにくたばりたくない

血管の流れに忠実である為に

僕は泳ぐ

かたちを忘れた柔らかい魂よ

僕は巡り 闇の方に駆け出すことも厭わない

吐き出した煙の行方を

消え去るまで見つめるように

遠い田園 深い新緑 失われた風景に溶け合う

案山子にぶら下がった少年たち

君たちが放つ眼差しの一矢で

やがて僕を突き刺してくれるその日まで



ハートを凍らせて


何度も目を覚ます

夜明け前

しらけちまった

君との会話みたい

何も覚えていない

夢の中でだけ

指きりした

残り香は胸焼けだけを

残して消えた

手をこまねいている

朝 忘れさせて

水を被る春の獣

めまい感じるほどの

凍える愛撫をもう一度

(すなわち 彼はもう一度眠るのだった)



貝殻、うたう


楕円形に夢を見る

だらしない波が立つ

まじない電話 砂まじりで鳴り止まない

あなたの声は聞こえない

海の遠く 神様の近く

裸の胸を日焼けさせてた

許される日が来るなんて

迷信 本気で信じていたの

ラプラスの世界に

私の居場所はない

街角に立つのは幽霊

幽霊の私なのね



盗まれた会話


「ここはかつて劇場とされていた空間」

「真っ暗で何も見えないわ」

「そんなことはないよ。だって君は喋っているもの」

「……」

「僕は服のデザインをしているんだ。君は?」

「赤ん坊工場で働いてる」

「学校の制服を着ているけれど…」

ストライキ中だから」

「僕はいつだってストライキの最中にいる」

「工場も今は止まってる。だから劇に出ることにしたの」

「子供を作らない生き物はオプティミズムに絞め殺される」

「人間は進歩を止めた。散歩の方が生産的であると気づいたから」

「台本を読んでいると心が安らぐ。ここは歩くような調子で」

「奴隷の幸福を容認せよ、とレアージュは言った」

「降伏なんてするものか!従軍経験が今日の僕を支えている」

「"戯曲 : 第三世界におけるハクスリーの敗北"より抜粋」

「言葉を探さなくては。僕らは戦争と革命の区別も知らない」

「この戯曲は去勢を第一の目的として書かれた。舞台は未開の地アメリカ。男はみな神に身を捧げるアベルの子孫である。女はみな一糸纏わぬ姿でいなければならない」

ヒットラーは変態性欲者だった。キリストも同じだ」

「言葉?言葉が私たちを縛りつけているのね」

「救いの手でもある。が、もう目にすることは叶わない」

「光とともにあるのが言葉」

「森は語る。労働が引き起こす殺人産業を」

「壁紙に覆われた言葉を探さなければ」

「と彼女は言う。はじめから」

「やり直すのね」

「近親相姦は隣人を愛することと同義と提唱したルシファーは追放された」

「世界は抜け殻の産物なのかもしれない、と彼は言う」

「人間の根源とは?言葉だ。森の、水の声に耳を傾けよ」

「アーベーセー。力強い言葉」

「マリアの胎盤を掘り出したぞ!ボブ・ディランになるのが昔の夢だったんだ」

「聖女は神の奴隷。では処女ではない私は?」

「抜け殻を纏っている。断罪を望む傾向が切断される身体に現れている」

「言葉…抜け殻としての世界…オルフェウス

トルストイユートピアを信仰していた。西欧中心主義はエスペラント語によって完遂する」

ロラン・バルトとはフロイトの白昼夢である。私たちは今、海岸に沿って車を走らせる」

「トーキョーはバベルの塔の幻影を無意識に背負っていると言えるだろう。印象派的幻想都市」

「裸でいる、ということは私たちが各個人とすり替わることを可能にする」

「街は迷路のようだね」

「干からびてしまう前にカフェに立ち寄りましょう」

「消費活動から生まれる財産。珈琲は好きだ。ブラック・パンサーはデニス・コフィーもキャロル・ケイもみんな黒人にしちまうけど」

「戦場のように喧しいのは嫌。街で声を上げる者に投票する気が失せるのはなぜかしら?」

「選挙権を持たない若者にとって、ケンドリック・ラマーはもう立派な政治家だ」

「若者は洗脳によって未来を導き出す。両親への反目が翼を授ける」

「子供の頃の記憶はまるで前世の自分を発見するように思えてならない」

「遺伝子の前線に立っていては踊らずにはいられないわ」

「観客は僕。名前はマーク・トウェイン

「私は彼を誘惑する。素敵な失業者さん!」

「僕は彼女の雇い主でもあり、恋人のように振る舞う遊戯に固執している」

「まるで映画のように」

「スクリーンの中から現実を見る。それは既にメタフィクションではない」

「森の中に足を踏み入れる。船長!ここは楽園でしょうか!と」

オードリー・ヘプバーンとは女の個人名称である。グレース・ケリーは?」

「またの名をターザン。『泥棒成金』における彼女の活動に世界は服を脱ぐほどの感動を覚えるだろう」

「言葉は目の前にある。それを撹乱する。融解。誘拐?それじゃもう

「夜が明けるわ」



夏の続き


今は幸せ?

なんて聞かないで

セルロイド・クロゼットに

しまった思い出

溢れてしまう

いつか映画で観た

モノクロの雨の中

あなたと二人

歩いているだけで

色が咲くのよ

素敵な瞬間 雨のプレリュード

言葉にするだけ野暮なことなの

生きてることに夢中なの

ほら もうすぐ 聞こえるでしょ

あの夏の続き はじまるのよ

白粉を溶かして

お菓子みたい 甘い人生

少しだけなら 泣いてもいいわ

あなたにあげる エスプリだから



夢みる大陸


競走馬を眺る気持で

世間を見ている

尻をナイフでつっつかれていようが

人参を鼻先にぶらさげられようが

苦渋で眉間を歪ませようと

恍惚に頬を染めようと

同じように

彼らは一直線に走ることができる

その脚は素晴らしく従属的で

惑星の時を刻む美しさ

愚鈍な我々は森の住民だ

渡り鳥と友情を育み

四次元に向けて袂を振る

我々は朽ちた大木に群がるバクテリア

水たまりで泥遊びをする

地べたに伏せ水脈を探す

野生と文明を往来する

彼らの脚で編まれた教会を夢に見る



溺れた英雄


心理学を専攻する探偵

ストッキングの詩を破れば

君は笑うだろう 詐欺師のように

我慢がならない

うるわしのプリマドンナ

共感の二文字で拘束する

「地獄の季節」を二度と口ずさむな

芸術的愛情志向とやらを見せてみろよ

からすの声で笑ってやる

厚い皮膚の下で

牛の睾丸とキスしてた蝿が

俺にウインクしてるぜ



カントリー


朗らかに私を抱いてくれる

あなたの広い心が 読めないので

私はいつも震えてしました

なぜ 考えずにいられるのですか

私の戯言に笑いを上げながら

あの冒涜者たちと握手するのですか

あなたは忘れることができる

私の頬を打ちたたくことができる

あなたは女優に見える時もある

時には劇場に見える

私には目視できない白線に従って

生きているとしか思えない

あなたは多くの人々を抱く

しかし あなたが抱かれているのは

そして私が抱かれているその手は

私たちを窒息させます

なぜ 私は田園のまぼろしをいつも見るのでしょう




クレーター


誰かが呼んだ声で目を覚ました

人波にさらわれてしまった

鏡の中でかなしい目をした僕がいる

四角い世界におしこめられて

きみの顔がよく見えない

さわっても うんともすんとも

こんなに近くても 遠いんだな

良いこともやなこともありふれて

ひとりじゃ抱えられない

月も痩せてしまうよ

こんなにも大切な気持ちなのに

ここじゃうまく言えないんだ

終わりのない エンドロールみたい

ダーリン 僕は僕の夢を見るよ



風鈴


ちっぽけな魂が

一生の旋律をうたう

宇宙に裏切られぬ限り

ぼくはふるえつづえる



スフィンクス


オリオン 目光らしてる

ロリータ 理由はいらない

露骨にしていればいいさ

子供時分の微熱は一生モン

キメラトラウマ君を襲うよ

熱砂の風 成立不能のビブリオ

言い出し兼ねて澱みの春だ

星の砂盗んでしまえ

僕ら以外転べないように

神話のあらすじを残らず攫おう

べとついた足取りだけでいい

ものは言うな

君は真昼の月 テレパシーの化身

ロー・リー・タ



風車


お前と私

その間にそっと風車が立っている

仄白い空気をひんやりと感じる

私たちは服を着る獣だ

そうしたもの悲しさや酔狂な嬉しみが

くるくると舞っている

グラデュエイション

瞬きを残らず見ていたい

欲望によって分裂する

アナスタシアの記憶が血管を巡っている

くるくると舞っている



誘惑


洪水が街を呑み込む時

いくつかの宝石は散り

輝く運命が満ちていた

俺の首にからみつくセイレーン

花の蜜を交配する歓びに耽り

ハンカチーフを解けば

泡沫の音を立てながら

摩天楼は崩れ落ちる

胸の貝殻が俺に囁く

太古からの約束の場所に行こうと

水底に漂う 時間が作りし荒野へ



これから来たる


少年は太陽を奪おうと試みる

夜目に慣れすぎてしまった為に

目がくらむ量子をつかまえんともがきたいのだ

薄汚れた錬金術のマニュアルは打ち棄てられ

永遠に屹立する現在を妻とし

都市の中で森の営みと歩調を合わせる

それぞれの呼吸で 木霊する精神を有しながら

大河の上 朗らかに綱渡をする肉体と共に

それらはすべて 友好的に受容され

でたらめのうちに花を咲かせることだろう



舞踏会


無軌道に思える円舞が

無数に重なる 花束みたい

たくさん散らせた花びらが

降り積もってゆくのを眺めていた

予感の灯火が彩りに燃えれば

バンドは息を吐き返す

非常階段の扉の奥で

グレートヒェンの救いの歌が聞こえた

夜明けの時間は引き延ばされて

皆殺しの天使はやってこない

罪なき時代を過ぎても



予告編


いつも書き出しが思いつかないんだ

誰かと誰かが出会う

ドラマはそれで始まり 終わる

スライス・オブ・ライフ

舞踏会は終わらない

僕らが夢を見つづける限り

でも もう夢を見ることも少なくなった

ダンスホールを抜けて

バルコニーで少し話したのを覚えてる?

街の静寂に耳を澄ませながら

君とはじめて出逢った気がしたんだ

何もあげられないけれど

あの時 たしかに感じられた

生きている気持ちを



氷のキス


血も凍りつく橋の上

踊り疲れた二人

サンタクロースが迎えに来るまで

雪と共に眠ろう

おやすみ アンナ



フォーリン


暗いところから抜け出して

君と出逢ってしまった

飛べない空が明るく見えた

夜の森を突き進む わけもなく

そこに行けばわかるはず

道は途切れてしまうから

離さないで 強く握っていて

心が 瞬間 混じり合う 永遠を

もう止まらない 思い出が邪魔をしても

ふたりが新しく生まれはじめる 世界へ

探し出したみずうみ

迷いなく飛び込むよ

この気持ちは何? 忘れていたような

心が 瞬間 混じり合う 永遠に

もう戻れない ひとりの世界には

落ちてゆく ふたつとない ひとつの心へ

その眼差しで 突き刺して 未来まで



ローリン


彼女と一緒に帰った。

どういうわけか、寄り道してよく行く喫茶店に入った。私が誘ったのか、彼女が誘ったのか。そもそもどうして一緒に帰ることになったのか。判然としていない。

店内BGMはいつも後期のビートルズだった。その日は珍しくストーンズだった。音楽や将来についての話をしていたと思う。相手を気に入っているような、軽蔑しているような態度に、私は普段より上手く喋れなかった。薄い紙製のタンブラーに珈琲の染みが広がっていた。

翌日の講義で彼女と鉢合わせた。彼女は私の隣の席に腰を落とした。

教授が配布するレジュメの該当箇所に修正テープを充てる時間だった。聴講生は皆、教授に従順だった。黙々と文字を消してゆく。私はテープを持っていなかったので彼女が作業を終えるのを待った。

「先輩、昨日言ってたこと、本気ですか?」

彼女が言った。私は最初、どの発言を指して言っているのかわからなかった。

「転がることにしたからって」

「転がる。うん。嘘じゃない」

言葉のニュアンスはよく覚えていなかったが、意識としては間違っていなかった。たしかに彼女に昨日打ち明けた覚えがあった。

彼女は一度手を止め、私の顔を見た。見開いた目を瞬きせず、そっと細めた。顔を近づけ、私の耳元で囁いた。

「私と溶け合って、転がりつづけて」

文字を白く汚すテープがずっと転がり続けていた。

〈2018/02/05の夢〉