眠りにつく10秒前。

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笑う月に吠える

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眠りといえば夢。


安部公房は夢の内容をテープレコーダーに録音して記録していた。何を思ったか、それに倣って夢日記をつけてみようと試みたことがある。

案の定、大して面白い夢を見ることもなく、ほどなくして中断した。手元にも残っていない。

そもそも夢日記が読み物として耐え得るなど、稀代の作家にしか出来ない芸当だ。とんだ御門違いだった。



夢日記は断念したとはいえ、記録していなくても印象に残っている夢がいくつかある。


一つは発熱時によく見た悪夢。

暗い森の中を運転手のいないトラックが追いかけてくる。必死で走って逃げるも、足は鉛のように重たくて、思うように動かない。

追いつかれる、というところで景色が開ける。目の前は崖。必死の思いで跳躍する。


普通だったらここで目覚めてもいいはずだ。しかし、この夢は意地が悪い。墜落したと思った途端、またトラックに追いかけられるのだ。時をかける地獄…。


ちなみに映画『激突!』はまだ観ていない。リチャード・マシスンよりも先に産まれていれば、魘されていた幼い頃の自分も報われていた…かもしれない。



印象に残っている夢というのは、大体、恐怖心を煽られるものが多い。

実は悪魔の子であることがわかり、クラスメイト、家族からも疎外され、遠い山の中に迫害される夢も見た。

これはムーミンが異形の者に変えられ、周りから遠ざけられるというお話をTVで観たせいだと思う。

ただ、ムーミンは母親にだけは認識され、そのおかげで元の姿に戻ることが出来るのだ。どうやらかなり悲観的な子供だったらしい。


もうひとつTVに影響された夢を覚えている。世紀末思想が流行していたのか、やたらに「地球は滅びる!」だとか「大震災は今すぐにでも起こる!」といった番組が多かった気がする。

そのおかげで、地球はおろか、太陽系が消滅した宇宙で、人類の魂は冷たい闇の中でウヨウヨと永遠に彷徨う、という夢を見た。

目を覚ましてから、「人は結局ひとりぼっちなんだ」と思って、しんみり泣いた。


面倒な子供!


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中学校の卒業式。


三月の上旬だというのに、昇降口近くの大木の桜は満開だった。特別悲しむこともなく、友人と校庭で戯れていた。

そろそろ帰ろうかと散り散りになると、三つ編みの女子に呼び止められた。名前も顔も知らないが、どうやら下級生のようだった。


彼女は一通の手紙を手渡した。差し出した指先を見て、恐ろしく肌が白いと思った。


下級生が卒業生に告白だなんてベタな話が自分にもありえるのかと狼狽していると、

「ここで読んでください」

と言う。


毅然とした態度に圧され、封を破く。便箋には丸っこい筆致で、


「誰よりも先輩を愛しています。私の彼女になって下さいますか」


と書かれていた。


彼女はレズビアンで、しかも私を女性と認識して交際を申し出たのだった。


私は男という生き物を卒業して、セーラー服に袖を通し、彼女の恋人となった。美しい恋人でいよう、と誓い、手を繋いで帰った。



これはここ数年で唯一覚えている夢だ。

分析するまでもなく倒錯しているので説明は割愛する…。


最近、現代詩に触れようと思い立ち、手始めに萩原朔太郎を読んでいる。

口語自由詩の確立、象徴主義、西洋と日本、宗教問題、性と聖。

朔太郎を読み解くテクストは色々あるのだろう。だけれど、こんな夢を見るような人間には、『月に吠える』という題は、女性性への飽くなき憧れ、変身願望の表れに思えてならない。


夢を夢で上書きする。誤読もまた楽し?